東京の新木場にほど近い、木材会館。
この最上階にあるホールは例えるならば
空に近い森の中、深呼吸したくなる場所。
7階建ての木材会館、最上階のホール
天井から前方モニターに向かって、24mという大スパンのダイナミックな空間を支えているのは檜の梁。檜の香りに包まれ、思わず深呼吸。席にしばらく座っていると心身もリラックス、そして心地よく集中するような感覚。
ビルで木材、大丈夫?という疑問。
木材を構造に使うため、火災発生時には火が天井に届かないかなどを計算し、検証した上でのもの。さらに最上階は自重を支えるだけのため、実はビルの一番上に軽い木造というのは、合理的な構造。
木材を使うと、素材も作業も高いのでは。
かつては、木材をこれだけ使うことは、職人さんの工数・コストなど非常に高価な作業で、実現不可能に近かったもの。
現在ではコンピューター制御による機械加工もあり、例えば継手1つに15分かかっていた制作時間が、数十秒というように、圧倒的に作業時間とコストが下がる分、材料自体にコストをかけられるように。
ホールのカーテンを開けると、
外側には都心を望む気持ちよいバルコニー。
南北方面の先にはスカイツリーも。
内側は 檜の香りでほのかに感じる自然、
外側は 風や光をまっすぐに受ける自然。
内と外でガラスを隔てながら、異なった自然を感じさせてくれる建物。
ホール入口には、木の端材を重ねたアート。
制作を職人さんに頼み込んだもの。
木材会館のエントランス
左にギャラリー、右にエントランスホール。
ともに光の当たる場所が限定された空間。人は目が行く方に光が照らされていると、暗いとは感じないという原理。
エントランスホールにあるオブジェ
ホールの階段
歩いていく方向に、必ず外が見えるという奥行きのある景色。
照明の場所を限定することにより、実際には光熱費コストを下げることにも。合理的な解は、心地よい陰影を生み出し、空間をより豊かなものにしているようです。
各階に設けられているバルコニー
日常的にはリフレッシュやコミュニケーションの場所という目的、そして隠れた目的として、災害時の対応にも。
例えばビルが開かない窓だったとき、人は災害時に安全に空気を得ること、そして逃げることが出来るのか。
極限状態でどういうことが起きるかを、
デザイナーは分かっていないといけない。
設計者でもある日建設計 山梨知彦さんの話す言葉に込められた、建築家のもつ社会的役割。それらを考えぬいた先の理由あるデザイン。
今後、外観にある木材は年を経てグレーに、コンクリートは黄味がかった色に近づく経年変化で、木とコンクリートが融合してゆく景観も楽しみな場所。
夜の暗さに消えるでもなく、目立つでもなく、
ほのかに灯る街のランタンのよう。
■ ICTの利用
この木材会館の設計の肝ともなる木材加工との闘いなどにはICTが活用され、重要な役割を果たしています。そのBIMについて少しだけ簡単に。
設計といえば模型とともに想像するもの・・・
図面を書き、デザインイメージとして3D作成。
構造や設備の詳細を詰め、施工図に。
変更が入ると、他との整合性を取りながら色々と修正。ビルとなると膨大な図面作業。
一方、BIM(Building Information Modeling)は
BIMツールで3Dモデルを作ることで、平面・構造・立面など、全て整合性が取れて同時に作れてしまうというワークフローに。つまり修正も同時に反映されて、全て整合性の取れた図面を一気に作ることが可能。
コスト、仕上げ、管理情報などのデータから、施工や維持管理なども含めて一元的に情報が活用されて、合理化と効率化に繋がるもの。
その作業の合理化と効率化で抑えたコストを、マテリアルなどにも使えるため、複雑だったり、高価な材料でも最終的にコストがきちんと収まるように。
木材会館の木材を用いたホールもBIMの賜物。
ビジネスの世界でも盛んにいわれているイノベーション。
常識や前提などにある問題の枠組みを作り直して、圧倒的な進歩を達成することを意味する時、木材会館も、その進歩を体現しているようです。
(2017.2.3 「ICTが建築づくりを変える」日建設計 山梨知彦氏(於 木材会館)の講演内容をもとに構成)